業界内では当たり前のように使われている「告示前救助袋」という言葉。改めて、この言葉がなぜ生まれ、なぜ今も点検の現場で重要な意味を持ち続けているのか、その背景をたどってみます。


「バラバラだった時代」があった
救助袋の構造・材質・強度に関する技術基準が定められたのは、昭和56年消防庁告示第8号(「避難器具の基準を定める件の一部を改正する件」)によってです。逆にいえば、それ以前は各メーカーが独自の仕様で製造しており、同じ「救助袋」という名前でも、使われている生地の強度や材質は製品によってかなりの差がありました。この告示より前から設置されている救助袋を、業界では「告示前救助袋」と呼んでいます。
素材も時代によって変わってきた
「バラバラだった時代」の救助袋は、構造だけでなく使われている帆布(本体布・展張部材・縫糸などに使われる布地)の素材自体も時代によって移り変わっています。昭和30年代ごろから昭和40年代中ごろまでは綿帆布が主流でした。その後、昭和40年代から昭和50年代中ごろまではビニロン帆布・ナイロン帆布、一部ポリエステル帆布が使われる時期に移り、天然繊維から化学繊維へと素材開発が進みます。ただしビニロンやナイロンには収縮や引裂強度の低下、経年による劣化といった弱点があり、昭和57年の認定以降はその弱点を補うポリエステル繊維へと切り替わっていきました。
素材ごとの劣化の出方にも特徴があります。
| 帆布の種類 | 主な使用時期 | 劣化の特徴 |
|---|---|---|
| 綿帆布 | 昭和30年代〜40年代中ごろ | 吸湿性が高く、ムレ・変色・カビが生じやすい |
| ビニロン帆布 | 昭和40年代〜50年代中ごろ | 経年収縮が著しく、袋全体の長さが縮む |
| ナイロン帆布 | 昭和40年代〜50年代中ごろ | 著しい伸びが生じ、湿気・温度で変色 |
| ポリエステル帆布 | 昭和57年の認定以降 | 湿気に強く、強度変化が比較的少ない |
告示前救助袋は機種も多く、素材の組み合わせも相当な種類にわたるため、経年変化と相まって不備が生じやすい箇所の把握が難しくなっている、という事情があります。
余談ですが、化学繊維の種類はヨード・ヨードカリ液を使うとビニロン・ナイロン・ポリエステルを簡単に判別できるという、ちょっとした鑑定方法もあるそうです。
なぜ「50cm」が基準になったのか

この出口高さ50cmという基準、実はもう少し古くからあります。平成6年1月19日自治省令第4号の段階では、救助袋の出口と地面との間隔は「静荷重」の状態で50cm以下とされていました。つまり、袋にある程度の荷重(人が乗っているような状態)をかけたときの高さが基準だったわけです。これが平成8年4月16日消防庁告示第2号(避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準の細目)で、「無荷重」の状態、つまり何も荷重をかけていない状態での50cm以下という、より厳しい基準に改められました。
背景には生地の経年劣化があります。設置から長い年月が経った救助袋は、本体布が劣化によって収縮し、出口の位置が想定より高くなってしまうことがあります。荷重をかけた状態でだけ50cmを確認していると、無荷重時の実際の出口高さがどれだけ上がっているかまでは分かりません。出口が高くなるほど、降下した人が着地する瞬間の衝撃は大きくなり、思わぬ負傷につながりかねません。無荷重を基準にすることで、劣化による出口の上昇そのものを検出できるようにした、というのがこの改正の狙いだったと考えられます。
平成28年3月31日付けの消防庁予防課長通知(消防予第104号)は、この無荷重50cmという既存の基準を新たに作ったものではなく、経年劣化によって基準を満たさなくなった告示前救助袋が実際に見つかったことを受けて、点検時にあらためて確認を徹底するよう呼びかけたものです。
救助袋の下部出口と降着面等との間隔を無荷重の状態で50cm以下とする基準は、平成8年4月16日消防庁告示第2号(避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準の細目)に定められています。平成28年3月31日付け消防予第104号は、経年劣化によりこの基準を満たさなくなった告示前救助袋が確認されたことを受け、点検時の確認徹底を求めた通知です。あわせて、告示前救助袋は学校施設に設置されている割合が特に高いことも指摘されています。
出典:総務省消防庁「避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準の細目」(平成8年消防庁告示第2号)、「避難器具(救助袋)の点検及び報告の実施に係る留意事項について」(平成28年3月31日付け消防予第104号)
今も現場に残り続けている
告示から40年以上が経ちますが、告示前救助袋は今も少なくない数が現存しています。点検で不備が見つからない限り設置を続けられる仕組みになっているため、更新のタイミングを逃したまま使われ続けているケースも珍しくありません。特に学校施設は告示前救助袋が残っている割合が高いとされており、点検や更新のタイミングを考えるうえで見過ごせないポイントです。