避難器具用ハッチと避難用ハッチについて

避難器具の多くは、使用することで避難階又は地上まで一度に降下する構造です。これに対し、床面に設けられた金属製の箱状の取付具の中に金属製避難はしごや救助袋を格納し、すぐ下の階へ降下する形式のものもあります。この取付具が、一般に「ハッチ」と呼ばれる設備です。「ハッチ」には、「避難器具用ハッチ」と「避難用ハッチ」という、法令上の位置づけが異なる2つの区分があります。

本ページでは、この2つの区分の違いと、区分が生まれた歴史的経緯についてご案内します。認定・自主認証の申請手続きについては、別ページ「避難器具用ハッチの登録認定等業務について」をご参照ください。


第1 両者の区分

「避難器具用ハッチ」は、その名のとおり内部に避難器具を格納することを前提とした設備です。ただし、ハッチそのものは避難器具を取り付けるための取付具(容器)であって、避難器具そのものには該当しません。避難器具に当たるのは、その内部に常時使用できる状態で格納されている金属製避難はしごや救助袋の方です。避難器具用ハッチは、避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準の細目(平成8年4月16日消防庁告示第2号)第八に定める基準を満たすものである必要があります。

これに対して「避難用ハッチ」は、内部に必ずしも避難器具を格納しているとは限りません。開口部のみで器具を伴わない形態(非格納型)や、既存ハッチの改修に用いられる改修用ハッチも含まれます。避難器具そのものには該当しませんが、避難のための設備であることから「避難用ハッチ」と呼ばれています。

両者の違い

避難器具用ハッチ 避難用ハッチ
内部の器具 避難器具を常時格納 格納がない場合も含む(非格納型等)
下ぶた 定義上必須 必須ではない
開口部の形状 丸形の規定なし 既存設備として丸形も含む
根拠 告示第2号第八に定める基準 一般社団法人全国避難設備工業会が告示に準じて定める自主認証基準
製品の扱い 登録認定機関(一般社団法人全国避難設備工業会)による認定品 一般社団法人全国避難設備工業会による自主認証品


第2 名称の由来と経緯

マンホールと呼ばれていた時代

現在「避難器具用ハッチ」と呼ばれている設備は、かつて「マンホール」という名称で扱われていました。当時は丸形のものも存在しており、その名残から、現在でも北関東の県営住宅など、建て替えの済んでいない既存の建物では丸形のハッチを見かけることがあります。一般的には、方形のものを「ハッチ」、円形のものを「マンホール」と呼び分ける整理がされていますが、この呼び分けには諸説あります。

第50号通知とその廃止

「ハッチ」という名称が定着する経緯には、次のような法令上の変遷があります。

  • 昭和48年6月6日 自治省令第13号消防法施行規則の改正により、4階以上の階に避難はしごを設ける場合は金属製の固定はしごによることとされ、つり下げはしごを設けることはできないとされました。
  • 昭和48年10月31日 消防安第50号(第50号通知)「マンホールに組み込まれた避難はしごの取扱いについて」により、一定の要件を満たす防火対象物に限り、消防法施行令第32条(特例)の規定を適用し、マンホールに組み込む形で4階以上の階につり下げはしごを設けることを認める取扱いが示されました。
  • 平成14年6月24日 告示第2号一部改正「避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準の細目」の改正により、それまで特例的な扱いであった「マンホール」が「避難器具用ハッチ」として正式に位置づけられ、構造・材質等の基準が整備されました。安全性・信頼性が確保されたことに伴い、特例としての第50号通知はその役割を終え、本則に組み込まれる形で廃止されました。

つまり、施行令第32条の特例として運用されていた第50号通知の内容が、告示改正によって正式な基準(本則)に格上げされたために、通知そのものは不要となって廃止された、という経緯になります。

通知要旨

消防法施行規則の一部改正(昭和48年自治省令第13号)により4階以上の階へのつり下げはしごの設置が制限されていたところ、「マンホールに組み込まれた避難はしごの取扱いについて」(昭和48年消防安第50号)により、令第32条を適用した特例的な取扱いが認められていた。平成14年6月24日の告示第2号改正でマンホールが避難器具用ハッチとして位置づけられ基準が整備されたことに伴い、安全性、信頼性が確保されたことから第50号通知は本則化し、廃止したものであること。

消防法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う消防用設備等の技術上の基準の細目に係る運用について(消防予第170号、平成15年6月24日)より要旨

ハッチ自体の構造・材質基準の整備

マンホールに関する取扱いとは別に、ハッチ本体の構造・材質そのものについても、同時期に基準の整備が進められています。

  • 平成4年4月15日 消防予第85号「避難器具用ハッチの基準について」により、上ぶた等の腐食により避難器具の使用に支障をきたす例が見られたことを背景に、避難器具用ハッチの構造・材質等の基準が通知の形で示されました(施行は同年6月1日)。この基準により、本体・ふた・取付金具等の材質はSUS304〜316(ステンレス鋼)に統一されました。
  • 平成14年6月24日 消防予第180号・告示第6号それまで通知(消防予第85号)にとどまっていた避難器具用ハッチの構造・材質基準が、告示(平成8年消防庁告示第2号)自体に明確に規定されることとなりました。基準の所在が告示に一本化されたことに伴い、消防予第85号はこの日をもって廃止されました。

通知要旨

避難器具用ハッチについては、避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準の細目(平成8年4月16日消防庁告示第2号)において規定されているが、その構造及び材料については規定されておらず、「避難器具用ハッチの基準について」(平成4年4月15日消防予第85号)において示されていたところである。そのため、避難器具用ハッチの構造及び材料について明確に告示で規定し、基準の明確化を図るものである。「避難器具用ハッチの基準について」(平成4年4月15日消防予第85号)は、平成14年6月24日をもって廃止するものであること。

―避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準の細目の一部改正について(消防予第180号、平成14年6月24日)より

2つの経緯はいずれも平成14年6月24日という同じ日に告示改正という形で決着していますが、それぞれ別の課題(設置階数の緩和と、ハッチ自体の品質確保)に対応したものであり、たまたま同時期に整理された、という関係になります。


第3 避難用ハッチの内訳

避難用ハッチには、大きく分けて「非格納型」と「改修用ハッチ」の2つがあります。非格納型は、内部に避難器具を伴わない開口部のみの形態です。

改修用ハッチとカバー工法

改修用ハッチは、老朽化した避難器具用ハッチや、避難器具用ハッチという位置づけが整備される以前に設置されていた「マンホール」を更新する際に用いられるハッチです。

ハッチ本体は床に埋め込まれて固定されているため、これを完全に撤去しようとすると床のコンクリートをはつる必要があり、建物の強度を大きく損なうおそれがあります。そのため、改修には「カバー工法」と呼ばれる工法が用いられます。既存ハッチの枠を残したまま、上ぶた・下ぶた・内部の突起物のみを撤去して開口部だけの状態にし、その枠を上下から覆うように新しい枠を差し込んでボルトで一体化し、新たな避難用ハッチとして仕上げます。この工法上、内寸は既存のものよりやや小さく、外寸はやや大きくなる点が特徴です。

このように、避難用ハッチの基準は避難器具用ハッチと比べて、開口部の内寸等に違いがあります。


第4 認定制度の違い

避難器具用ハッチは、告示に基づく国の基準が定められていることから、製品の型式について登録認定機関による認定制度が適用されます。当工業会(一般社団法人全国避難設備工業会)は、この登録認定機関として認定業務を行っています。

一方、避難用ハッチは、開口部の寸法や下ぶたの有無など、避難器具用ハッチの基準にそぐわない仕様を含むことから、当工業会が別途定める基準に基づく自主認証品として扱われています。この自主認証基準は、告示(平成8年4月16日消防庁告示第2号)に準じた内容として定められており、既存設備の改修という実務上の必要性に対応した制度です。


第5 区分を混同することの実務上の留意点

避難器具用ハッチと避難用ハッチは、外観だけでは判別しにくいことがあります。しかし、消防法施行令第25条に基づく避難器具の設置義務の充足という観点からは、この区分は実務上重要な意味を持ちます。

避難器具の設置数に算入されるのは、避難器具用ハッチに常時使用できる状態で格納されている金属製避難はしごや救助袋そのものです。ハッチ自体はあくまで取付具であり、避難器具ではありません。非格納型の避難用ハッチは、この肝心の避難器具(はしごや救助袋)を内部に備えていないため、これを避難器具用ハッチと同一視して設置義務を満たしているものと扱うことはできません。改修や物件調査の際には、外観の類似性にとらわれず、内部に告示基準に適合する避難器具が実際に格納されているかどうかを確認することが重要です。

審査基準

外気に面する部分にバルコニー等が避難上有効に設けられている防火対象物に設置する避難器具は、努めて避難器具用ハッチに格納された金属製避難はしご又は救助袋とすること。

さいたま市消防用設備等に関する審査基準 第15 避難器具より


第6 安全上の留意事項

「のらない・あけない・さわらない」

避難器具用ハッチに貼付される警告ラベル
避難器具用ハッチの上ぶたに貼付される警告ラベル

ハッチには、この3原則を示す警告ラベルが上ぶたに貼付されています。このラベルは当工業会(一般社団法人全国避難設備工業会)が作成したもので、消防庁予防課の事務連絡(平成10年7月31日)により周知されました。ラベルの経緯や詳細については、別ページ「警告ラベルについて」をご参照ください。

なお、避難器具用ハッチとしての基準整備(平成4年消防予第85号、平成14年告示第6号)に伴い、本体・ふた等の材質はステンレス製(SUS304〜316)に統一されています。もっとも、上で跳んだり跳ねたりするような使い方をすれば変形を招くおそれがあるほか、直射日光の当たる場所に設置されたステンレス製のハッチは表面が高温になりやすく、素足で乗ると火傷のおそれもあるため、注意が必要です。