「特殊消防用設備等」という言葉、届出書類や検査済証で見かけたことはあっても、普段の業務で意識する機会は少ないかもしれません。実はこの制度、避難器具の世界とも無関係ではありません。今回はこの制度の仕組みと、避難器具に関わる実例を整理してみます。
消防用設備等には「3つのルート」がある
消防法第17条は、防火対象物に消防用設備等を設置する際の考え方として、性質の異なる3つのルートを用意しています。もっとも馴染み深いのは、政令・省令・告示で細かく仕様が決められた設備を、その通りに設置する「ルートA」です。避難はしごや緩降機など、避難器具の大半はこのルートに沿って設置されています。
| ルート | 考え方 | 根拠 |
|---|---|---|
| ルートA | 政令・省令・告示に定められた仕様どおりに設置する(従来型) | 消防法第17条第1項 |
| ルートB | あらかじめ確立された「客観的検証法」で、通常の設備と同等以上の性能があると確認された設備等を設置する | 消防法第17条第1項(性能規定) |
| ルートC | 客観的検証法すら定まっていない新技術について、建物ごとに総務大臣の個別認定を受けて設置する | 消防法第17条第3項 |
ルートBは、パッケージ型消火設備のように、あらかじめ「この試験方法で確認できれば同等以上の性能とみなす」という検証法自体が確立されている設備が対象です。一方ルートCは、そもそも検証法そのものが存在しない、前例のない新技術を使う場合の受け皿です。申請者は日本消防検定協会や登録検定機関(一般財団法人日本消防設備安全センターなど)による性能評価を受け、その評価結果をもとに総務大臣が建物ごとに個別認定を行います。これが「特殊消防用設備等」で、通称「消防ルートC」と呼ばれています。
特殊消防用設備等の制度は消防法第17条第3項に基づく総務大臣認定の制度で、平成16年6月の施行以降、加圧防煙システムや総合消防防災システムなど多様な分野で認定実績が積み重なっています。
「建物ごと」では時間がかかりすぎる、という壁
ルートCには、実務上の悩ましい課題がありました。総務大臣認定は防火対象物(建物)ごとの個別審査であるため、まったく同じ技術・製品を使う場合であっても、建物が変われば審査をゼロからやり直す必要があります。これでは審査にかかる時間の見通しが立ちにくく、製造・開発事業者にとって新技術を活かしにくい制度になってしまいます。せっかく一つの建物で認定を受けた技術の効果を、他の建物にも及ぼせるような、製品・システム単位の仕組みにしてほしいという声が上がっていました。
この課題に対応する形で用意されたのが、「特定機器評価制度」(日本消防検定協会)と「特殊消防用設備等事前評価制度」(日本消防設備安全センター)です。名前のとおり、これは建物に紐づく前段階で、機器やシステムそのものの基本的な性能をあらかじめ登録検定機関が評価しておく仕組みです。この事前評価を済ませておけば、実際に特定の建物でルートCの認定を申請する際、審査を一からやり直す必要がなくなり、審査全体が合理化されます。つまり特定機器評価は、ルートCとは別物の制度ではなく、ルートCの審査を機器単位で先取りして済ませておくための仕組みだということになります。
避難器具の分野でも、この枠組みは実際に使われています。当工業会のサイトにある「特定評価避難機器一覧」というページには、日本消防検定協会の特定機器評価を受けた避難器具がまとめられています。金属製避難はしごや緩降機のように、確立した技術基準に基づいて国家検定を受けている品目とは別に、まだ技術基準の定まっていない新しい避難器具が、この事前評価の枠組みを通じて世に出ている、ということです。
具体例として分かりやすいのが、開口部から昇降台に乗り、ペダルを踏むと自重でゆっくり降下するという、避難はしごや緩降機とはまったく異なる発想の降下型避難機器です。2022年に日本消防検定協会の特定機器評価を取得しており、その後、車いすに乗ったまま利用できるタイプも別途評価を取得しました。歩いて降りる、あるいは袋の中を滑り降りるという従来の避難器具の前提の外にある使い方ですが、機器単位で特定機器評価を受けたことで、避難のための器具として扱ってよいという総務省消防庁予防課の通知も出されています。


日本消防検定協会は「特定機器評価」として、技術上の規格が定められていない新技術の消防用機械器具等について、製造者等の依頼に基づく個別評価を実施しています。文中の降下型避難機器は、標準型が2022年7月(特評第280号・281号)、車いす対応型が同年10月(特評第282号・283号)にそれぞれ特定機器評価を取得しており、総務省消防庁予防課の通知(消防予第108号、令和6年3月1日)により避難のための器具として取り扱ってよいとされています。
出典:総務省消防庁予防課「特殊消防用設備等の性能評価事業」、日本消防検定協会「受託評価業務」、製品情報(ナカ工業株式会社)